荒井由美の「あの日にかえりたい」

荒井由美の「あの日にかえりたい」を聴くと、私は虚ろな学生生活を送っていた1975年のことを思い出します。私は1974年に高校を卒業したものの、第一志望の大学には合格しなかったため浪人することにしました。そして1年後の1975年に再チャレンジしましたが、やはり希望していた大学には入学できず、「滑り止めの」大学に入学したのです。もちろん私が入学した大学では、多くの学生がそうした挫折を乗り越えて新しい生活をエンジョイしていました。しかし、大学に入学すると同時に親元を離れ一人暮らしをしたいと考えていた私は、結局のところ、親元に留まって実家から大学へ通うことになりました。私は厳格な父親から離れて独り立ちしたいと意気込んでいたのですが、そうした張り合いが抜けて意気阻喪の状態だったのです。そんなとき、私がファンだった秋吉久美子さんが主演する「家庭の秘密」というテレビドラマが放映されるということを知り、私はそれを観てみることにしました。初回の放映のときに、主題歌として使われていた「あの日にかえりたい」を聴いて、私は少なからず衝撃を受けました。私はユーミンのデビューアルバム「ひこうき雲」とセカンド・アルバム「MISSLIM (ミスリム)」のLPを持っており、それまでの日本のフォークやロックとは明らかに異質なその才能に魅力を感じていました。しかし、そんなユーミンの曲がテレビドラマの主題歌として使用されるとは夢にも思っていなかったのです。しかも、「あの日にかえりたい」はそれまで聴いた彼女の楽曲の延長線上にはあるものの、より洗練されて新たな境地を切り拓いたもののように私には感じられました。彼女特有のノンヴィブラートの歌声はぶっきらぼうな印象を与える場合もありますが、それがまた彼女の魅力でもあると思います。また、「あの日にかえりたい」では冒頭や間奏部分に山本潤子さんのスキャットが効果的に用いられており、それが独特の抒情的な雰囲気を醸し出しています。この曲の歌詞に「あの日にかえりたい」というフレーズは登場しませんが、松任谷由美になる前のユーミンの歌唱でこの曲を聴いていると、なぜか私は「あの日にかえりたい」という懐古的な想いに囚われるのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です